妄想と記憶

人生にくじける孤独な妄想と記憶

通院日なので街に出てきました。ドトールに来てます。アメリカンを飲んでいる。寝坊したので朝食をとる時間もなかった。食欲がないから別に平気だけど。早めにクリニックに行って受付だけ済ませてしまう。ほかの患者さんが多いようなら、診察時間まで外に出て暇をつぶす。今まで通りにと思ってもやはり、今まで通りにはいかない。無意識にいつもと違う行動をとっている。先生に気を使っている。先生に対して壁を作って警戒している。僕が変わらなければ先生も変わらない。僕が今まで通りなら先生も今まで通り。心の中で唱え続ける。緊張しているのがわかる。大丈夫。僕は先生を信じている。


昨晩も寝る前まではよかったのに、寝ているあいだに痒くなって掻いてしまった。今朝早く起きれなかったのはそのせい。あと先生に会いたいという気持ちがなくなっていたせい。いつも通院日だけは早起きできていた。それは先生に会うのが楽しみだったから。今まで通りに戻りたい。先生が今まで通りなら僕も今まで通り。先生が変わらなければ僕も変わらない。


はぁ…疲れた。本当に疲れた。ドトール→精神科→カフェ。いつものカフェに来てます。クロワッサンとチョコの入ったクロワッサンとカフェラテでひとりランチ。先生は変わってはいないようだった。先週のことも先生としても反省して、どうしてああなったのか思い悩んで考えてくれたみたいだし。僕と同じように先生も苦しんでくれたことがうれしかった。ただ今まで通りにというのはまだ難しそうだと感じた。今日は僕としても、おそらく先生としても最もつらい診察だったと思う。先生の話は半分くらい納得できた気がした。少しは気持ちが楽になった。今まで通りに戻れる日は来るのだろうか。


医師と患者が近づきすぎたら駄目だということなのだろうか。だけど信頼関係を築くためには、ある程度近づかないといけない。医者としては信頼関係までいかない、適度な関係のほうが楽なのかも知れない。正直に話さず、時には嘘をつく、うわべだけの関係のほうが都合がいいのかも知れない。薬をもらうだけのひとなんて、時間も短縮できるし最高の患者だ。僕みたいな患者は面倒くさいし、時間もかかるし最悪だ。でも僕は先生のお話を聞いて役に立ってるつもりだったんだけどな。僕は先生のカウンセラーだなんて思い上がっていただけなのかな。それでも先生のほうから僕に話してくれて、僕は僕なりに考えたことを先生に話して、先生は助けられたと言っていた。それは決して嘘なんかじゃなく本当のことであったはずなんだ。僕はどうしたらいい?僕は今まで通り、先生を心の支えにして生きていくしかありません。もしもそれが先生の負担になるのだとしたら、僕は先生に黙って僕の心の中だけで、こっそりと心の支えにさせてもらいます。何が先生を苦しめるのかよくわからないので、僕はどのように先生に接したらよいのかわかりません。僕は先生を苦しめたくないけど、気付かないうちに苦しめるかも知れないし、もうすでに苦しめていたのです。ショックだけど原因が分かれば安心です。だけどその原因は曖昧でよくわからないものだから、まったく安心というわけではありません。普通の患者は医者の事情なんか知ったことじゃないけど、僕は変わった患者だから先生の事情をできるだけ考慮したいと思います。先生に依存しすぎることが先生の負担になるのなら、僕は先生離れをしてひとりでも生きていけるようにします。僕は今まで通りに先生とのお話を楽しむことができればそれでいいのです。それだけでいいんだ…


僕のせいで先生を苦しめたのなら謝らなければなりません。ただどうして苦しめたのか先生自身もよくわからないようなので、僕にわかるはずもありません。だけどできるだけ少しだけでもわかるようにできたらいいと思います。先生のトラウマを理解することは先生のことを理解することに他なりません。僕は先生の理解者になりたい。でもそういうのが負担になるのだろうか。わからない。先生が先生のままでしかいられないように、僕も僕のままでしかいられないのだと思う。僕は先生に対して嘘をつくことはできないのです。そうだとすると先生の負担にならないようにすることを考えるよりも、僕は今まで通り僕のままで変わらないでいて、それでもし先生が苦しむことになったら、そんな先生のことを理解するほうが大切なのかも知れません。というかそれより仕方がないと言ったほうが正しい。結局のところ先生も変わらないし僕も変わらない。変わらないというか変われない。それでまた信頼関係を作り直していくんです。今まで通りじゃなくてもいい。今までとは違うかたちで信頼関係が作れたらいいなと思うのです。


まだ気持ちがもやもやする。今日の先生のお話を聞いただけでは到底納得できるものではない。逆に混乱しているところもあるくらいだから。これからどのようにしていけばよいのか。僕の唯一の理解者であり心の支えだった先生はどこかに行ってしまった。ただの医者としか思えなくなってしまったのだろうか。だけど最初はただの医者だったのです。またやり直すしかない。リセットボタンが押されたんです。でも一からではなく、今まで積み重ねてきたところから始めることができるはず。こうして考えすぎるのもよくないのかなぁ…僕は単純に先生とお話をして楽しい気持ちになって、心が癒されればそれでいいのです。これからそういう時間を重ねていけば、また先生のことを僕の唯一の理解者であり心の支えであると思える日が訪れるのだろうか。そうだと信じたい。心の支えがないとつらすぎる。ひとりでは生きていけない。


さて、そろそろ動き出しますか。いつまでも先生に頼ってばかりいられない。自分の力で生きていかなければならないのです。先生との信頼関係がどうだとか、そんなことを考えている場合じゃない。あれだけ強い信頼関係で結ばれていたんだ。だから心配する必要なんてない。たった一度きりのことでがたがた騒いでみっともない奴だな。もっと自信持てよ。先生を許して理解して信じる。今まで通り先生は僕の唯一の理解者であり心の支えである。こんなことで僕が動揺していたら先生が可哀想だ。僕はもう先週のことはすべて先生に話した。これでこの話はおしまい。いつまでも引きずっていたって仕方ない。僕は強くならなければならない。そうだな。やるしかないんだ。